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ひとたび共同主観を真剣に考慮し始めると、ことば、協力、連帯、連携、結社等の問題が一挙に押し寄せてくるからである。第2章の最後で引用したA・ルービンシュタインによれば、ゲーム理論とはプレーヤーによって重要だと思われている諸要因の記述であるという。つまりプレーヤーの心の記述である。しかし、このプレーヤーとは生身の人間や実際の組織(企業や政府や結社)を抽象したものではなく、計算する理性はこのように推論するはずだというゲーム理論家の心を写した幽霊のようなものでしかない。

ナッシュ均衡とはプレーヤーの計算合理性の均衡、つまりゲーム理論家の心の均衡を記述したものである。神の見えざる手。共通の知識の前提、つまり神の目(全知の観察者の立場)をプレーヤーもとるができるという非協力ゲームの前提は、神の見えざる手ーいうまでもなく経済学の祖であるアダム.スミスの市場メヵニズム観であると通じるものがあることに気がつかれた読者もいるかもしれない。

実は、ナッシュ均衡の「物理的」な核心は、神の見えざる手の現代的解釈であるワルラス・モデル(一般均衡論)と同じなのである。それは数学的には不動点定理と呼ばれる。ワルラス均衡とナッシュ均衡についてまわるいろいろな困難均衡がどのように成立したかわからないとか、均衡外でシステムがどのように進行するかわからないといった困難は、不動点定理に内在しているものなのだ。ワルラス均衡とは、多数の市場で同時に需要と供給が等しい場合を指す。この需給均衡の背後には、市場価格だけを目安に最適行動(効用や利潤の最大化)をしている多数の消費者や企業がいると考えるのである。

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消費者を食い物にする寡占企業間の共謀や結託だろうか。しかし、地獄といえば、二〇世紀は人間の歴史のうちでもっとも血なまぐさい世紀であったといわれる。二〇世紀とはこの世の地獄が常態になった世紀であるともいえる(第8章参照)。

対立と協調の科学であるはずのゲーム理論の「解」は、現実の政策に応用された場合にこのような問題の「解決」に結びつくだろうか。戦略を定めて合理的に行動すれば、たとえば暴力をコントロールできるだろうか。その前に、ゲーム理論はそもそもこの世の地獄を問題として認識することができるだろうか。問題は戦争や暴力だけではない。ことばや遊びといったわれわれの原制度とでもいうべきものを、ゲーム理論は正しく認識しているだろうか。

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